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『組む』と聞いたら世
『組む』と聞いたら世の皆様は、どうせ『OLと腕を組む』だことの『OLが短いスカートで足を組む』みたいなことがお好きなんでしょう?
チッチッチ…。
私はそうではないのです。
私が好きなのは、『グランドメニューを組む』と云う作業なのです。
夢見がちな私なぞは、あんな料理を作りたいな、矢張りアメリカンダイナーにはこれがなきゃ、いやいや、こんな洒落たメニュー出しちゃったら、OLが長蛇の列になって近所からクレームが来るんじゃないか、などとすっかり舞い上がってしまうのです。
結果、あれもこれもと自分本位で書き上げた挙句、情熱だけが迸って、およそ一般ウケしないであろうメニュー原稿が誕生する事や、それを翌日読み返してガッカリすると云う、所謂、“ 翌朝のラブレター現象 ” にもすっかり慣れっこなのです。
久し振りの投稿に舞い上がってOLというワードを乱発する私の投稿に、皆さんがすっかり慣れっこなのと同じなのです。
商売たるもの、売りたいものを売るんじゃない、売れるものを売るんだ、と云うのは頭では解った気になっても、それが出来ないのが哀しいロマンチストの性と言うもの、そういった賢いやり方は来世に託すとして現世はもう諦めた、皆さんも寧ろ私のことは諦めて、只々優しくしてはくれないものか、などと甘ったれた事を考えているのです。
“ いや。オレはそれでいいと思うぜ。 ”
そんな時に悪魔の囁きが聞こえるのです。
“ 無難なバーガー、そつのないステーキ、流行ってるだけのバーニャカウダ、お前はそんな料理を作りたいが為に店を出したんじゃないんだろう? ”
“ お前が今書こうとしてるのは、ただのメニューだ。ただのメニューなんていうのは、ただの紙切れと一緒だ。好きが伝わらないラブレターがただの紙切れな様に。飛ばない豚がただの豚な様に。”
“ お前なら解るだろう? ”
「 その、解らない訳じゃないんです。全体としては寧ろ同意したい。でも、僕みたいに偏った嗜好の持ち主が、この小さな街で好き勝手やったって、あっという間にお店は潰れちゃうと思うんです。それは、僕が望むことじゃない…。 」
「 それに、バーニャカウダだけ名指し感がハンパないのも気になります。しかも、バーニャカウダって、もうそんなに流行ってないと思うし…。」
私は正直に答えた。
“ お前がやろうとしている事を平たく言うと、平穏を拾って冒険を棄てるって事になる。いいか? グランドメニューってのは、ある部分に於いてはその店の施政方針演説みたいなものなんだ。堅実なだけで、ワクワクもドキドキもない店に誰が行きたいと思う? ”
“ 美人揃いだが、フカフカもモミモミもないキャバクラに誰も行かないのと同じ事さ。”
悪魔は、心なしか遠くを見つめて言った。
「あの…。多分キャバクラってそういう店じゃないと思います…。」
“ 絶対に触れないフカフカと、もしかしたら触れるかも知れないフカフカ、と言うのは、似てるようで全く非なるものだ。例え結果が同じ『触れない』としても、だ。”
「すいません。ちょっと何言ってるか解らないんですけど…。」
“ つまり、可能性と想像力の話さ。”
“ 神は人に想像力を与えた。個体の保存の為に、だ。それ故人は、そこに少しでも可能性がある限り、希望を抱いて生きていける。想像力如何によっては、可能性がないところにすら、心の寄る辺を見つける事だって出来る。”
“ イヤよイヤよも好きのうち、って言うのは、つまりそういう事さ。”
「何だか、キャバクラで迷惑がられるオジサンの典型みたいになってますけど、大丈夫ですか?」
私は、少し心配になって言った。
「話が大分本筋から逸れている。そして、グランドメニューとフカフカとの関連性が稀薄過ぎる。」
「いや、その…。グランドメニューもフカフカも、どちらも厚みに富んだ方がホスピタリティに溢れがちだ、というのは解るんですけど…。」
“ 解らん小僧だな…。”
“ いいか? 面白いメニューを出せ、なんて馬鹿な事を言ってるんじゃない。面白そうかどうかが大事なんだ。もちろん、旨い、と言うのは前提でだ。”
“ ワクワクとドキドキは、新しいメニューには不可欠だ。だが、それだけで、誰も何もオーダーしない様なメニューを作ったって、、、、、”
“ それこそ、絵に描いたフカだぜ。”
悪魔は、全く素人はこれだから、とでも言いたげに溜め息を吐いた。
「(絵に描いたフカ……。コイツは一本取られちまったな……)」
「(今度使お…… φ(・_・;) )」
そんなこんなで、新しいグランドメニューを組んでいるのです。
メニューの内容はもちろん、それに伴って、システムやレシピも変わります。
ずっと作って来たけれど、今回でメニュー落ちする料理。
ずっと作りたかったけれど、今回初めてメニュー入りする料理。
好きだったメニューが無くなって、ガッカリするお客さんがいるかも知れない。
でもね、あたい、飽きられたくないの。好きで好きで毎日ずーっと一緒にいて、恋が窒息してしまうのが怖いの…。
そんな場末のスナック嬢みたいな気持ちなのです。
それに、きっと新しいメニューの中から次のお気に入りが見つかる、と思っているのです。
春の恋が終われば夏の恋が始まる様に。
いつも指名してる子が辞めてしまったかと思えば、ワケありげな新人が入って来る様に。
実際皆さんがどう思われるかはもちろん分からないのですが、私が、自分が思うアメリカンダイナー像に少しでも近づける様に、と思ってのメニュー改正だというのは間違いのないところなのです。
変わらずご贔屓頂けたら、などと思っているのです。
“ だから、さっきも言っただろう?”
“ 本質、と云うのは中々伝わらないんだ。”
悪魔が言った。
“ お前が思うアメリカンダイナー像なんて、お客さんにしたらどうだっていいんだ。重要なのは、店が本当に格好良いかどうかじゃない。格好良さそうに見えるかどうかが大事なんだ。”
“ 若いけれど、審美的にウィークポイントを抱える女の子が横につくのと、若く見えるけれど、端々に若干の年輪を感じさせる美しい女の子が横につくのと。どちらが良いかの答えは、自ずと出ている。”
「お言葉ですが、そこで何を優先するのかは個人によって大きく分かれると思います。ただひたすらに、愚直なまでにピチピチしている方が良い、って人間だって沢山いるでしょう。」
「それに、キャバクラの話はもうたくさんだ。僕は、新しいグランドメニューの告知がしたいんです。」
“ お前は想像力の欠如が甚だしい。”
“ 今のはキャバクラの話ではない。それが、グランドメニューのメタファーだというのが解らんのか?”
「すいません。本当に何言ってるか解らないんですけど…。」
“ 良いキャバクラと言うのは、絶対的なNo.1がいる店ではない。 ”
“ ワイワイしたのからしっとりしたの、ポッチャリしたのからやせっぽちなの、綺麗なのから深海魚みたいなの、まんべんなく揃っているのが良い店さ。”
“ グランドメニューもまた然り。つまり、そういう事だ。”
“ 4人組のお客さんが来た場合、4人が4人ともバーガーを食いたい、と思う事は寧ろ稀じゃないのか?”
「それはそうなんですが…。正直なところ、メニューの話よりも深海魚の件が引っ掛かってます…。」
“ お前なら解るだろう?男には誰しも、深海魚みたいな可愛い子とちょっとお話したい夜があるって事を。”
「すいません…。深海魚みたいっていうのと可愛いっていうのは、兼任可能なんでしょうか?」
私は少し混乱して訊いた。
“ もちろん可能さ。”
“ 深海魚みたいって聞いただけで、彼女が審美的に劣るんじゃないかって思うのは、ハンバーガーって聞いただけで、それがジャンクフードだと思うのと何ら変わりはない。”
“ アメリカンダイナーの店主として、その発想は実に貧しいと思わないか?”
「(ぐぅ…。キャバ狂いのクセに、まさかこんなところで正論を吐くとは…)」
切り替える切り替える、と言い続けて早半年。
新手の切り替え詐欺かと思われた方も多いかも知れませんが、いよいよ、グランドメニューが新しくなります。
梅雨が空けるのが先かメニューの切り替えが先か、印刷と仕込みの関係で、正式にいつからとは申し上げられませんが、もうそんなにお待たせすることはない、という事だけはお伝えしておきます。
バーガーはもちろん、それ以外のメインメニューも充実したかと思います。
今暫く楽しみにお待ち頂ければ、と思っているのです。
よろしくお願い致します。
と、この度も無駄に長い投稿に最後までお付き合い頂いてありがとうございました。
私の統計では、ここまでたどり着いて頂けるのは、投稿を読み始めた人間のうち、20人に1人程度です。。。